アナログレコードのブームはいつまで続くのか? デジタル化時代における音楽の付加価値とは?
「今、アナログレコードが売れている」と言われ始めて、何年が経とうとしているでしょうか。
アナログレコードの歴史を辿ると、なんと19世紀にまで遡ることになります。エジソンが蓄音機を実用化したのが1877年。まだ円筒形だったレコードは、10年後エミール・ベルリナーによって現在の円盤形に改良されました。この円盤系のレコードが、第二次大戦後にビニール製のやわらかい素材に置き換わり、今も生産されているレコードと同じ仕様となったのです。
レコードは音楽を楽しむメディアとして定着しましたが、1982年にコンパクト・ディスク(CD)が発売されると、小さく軽いのに長時間収録できて高音質、ということで徐々に普及していき、レコード会社も初めはレコードとCDを併売していましたが、90年代前後には、CDのみのリリースが主流となってしまいました。
90年代以降の需要の激減により、レコードのプレス工場も次々と閉鎖されましたが、CD全盛の時代が続き、2000年代に音楽配信サービスへと置き換わる中、それでもレコードの生産は途絶えることはありませんでした。クラブのDJがレコードを必要としたこと、一部のミュージシャンや愛好家はそれでもレコードにこだわってリリースをしていたことなどが、プレス工場の命をつなげていたのでしょう。
そして2007年にアメリカで、まちのレコード店を救うために、お店が連携して様々な催しを行うイベント「Record Store Day」が始まったわけですが、それから10数年が経ち、今やレコードはアメリカで年間4000万枚以上の売り上げとなり、CDの3000万枚強を上回ったそうです。
中古市場も高騰して、昔は二束三文で売られていたレコードが数万円で取り引きされていますし、新品のレコードも以前であれば3,000円台で変えていたものが、5,000前後は当たり前、2枚組ともなると10,000円超えも覚悟しなければなりません。
一方でSpotifyやApple Musicなどのサブスクでは、月額1,000円前後で、毎日聴ききれないほどの膨大な楽曲を、新旧問わず聴き放題。しかも新譜は、リリース当日の朝にスマホを使って通勤電車の中で聴けてしまえるのですから、ただ音楽を聴きたいだけであれば、昔のように、レコード屋を巡回したり、レンタルサービスを使ったり、友人から借りたりして探す必要は全くありません。
特に音楽においては、デジタル化、ネットビジネスの成熟によって、情報の値段は極端に下がる一方で、デジタル化できないものの価値はより高くなっているようで、先のレコードだけでなく、コンサートのチケット代も、コロナ以降、さらに高額化に拍車がかかっているように感じます。
ビジネスにおいては、「付加価値」を持つことで他者と差別化し、たとえコストが高くても納得してもらえるようなサービスを提供しなくてはならない、と言われていますが、音楽業界では、レコードとコンサートがその好例と言えるのでしょう。わたしも、普段音楽を聴くのはスマホですが、休日は部屋でくつろいでレコードを聴くのが楽しみなので、Spotifyで素晴らしい音楽を見つけると、ついついAmazonやヤフオクで「アナログ盤はないかな」と探してしまいます。Spotifyでも十分いい音なんですけど、あの12インチのジャケットで手元に置いておきたくなってしまうのです(苦笑)。