本のタイトルは長いほうが売れる? ブックカバーや帯の文化から見える日本独特の販売戦略
本屋に行くと、面陳(表紙を見せて並べた状態)されている本のタイトルが、やたら長ったらしくなっているように感じます。「成功する人はなぜ〇〇をするのか」「転生したら〇〇だったので□□することにした」という文章型のもの、「〇〇という生き方ーー△で後悔しないための□□の戦略」のようなサブタイトルのようなものが長々と付くものなど、さまざまなジャンルで目にしている気がします。
実際、「2023年までの直近5年の上位30冊は平均10.3字で、1960年代に比べ2倍近くに達した」と日経新聞に書かれていました。ちなみに、わたしが今アマゾンの本のカテゴリーページに訪問して最初に出てきたのは、「ギャルがシルバニアファミリーを溺愛したら。」という漫画でした(句点除いて20字)。
なるほど、やはりタイトルは長くなっているんですね。上記記事の中では、コスパ・タイパを求める傾向の中で、本もタイトルを読むだけで自分にとってどれほど役に立つのか、どの程度時間を割けば良いのか(「1週間で身につく」とか書かれている本も人気のようです)が判断できることが求められている、というようなことが書かれていましたが、納得しつつも、ちょっと引っかかるところもありました。
多くの方が忘れがちですが、というか、わたしもつい忘れてしまって冒頭で間違えて書いてしまっておりましたが、本の表紙とは、「カバーを外した内側の部分」です。つまり、わたしたちが書店で目にする書影のほとんどは、表紙ではなくカバーの方だということです。
そしてさらにそのカバーの上から、書籍下部に帯が巻かれていることが少なくありません。いつ頃からか、この帯も巨大化しており、書籍の半分以上を覆うものも少なくなく、中には全面を覆ってしまっているものまであります。ここまで来るとカバーを二重がけしているような状態で、実際、「特別カバーバージョン」として販売されているケースもあります。
さらに加えて、書店には書籍に対して紙のカバーをつけるサービスまでありますし、書店や文具や、雑貨屋にはおしゃれなブックカバーが売られていますが、多くの方は、これを「カバーの上から」使っているのではないでしょうか。ちなみにこの書店から提供されるカバーという文化は、日本独特の文化らしいです。
では、今あなたの周りにある書籍を一冊手に取って、書籍のカバーをめくってみましょう。多くの場合は、1色刷りの、情報量が少ない、シンプルなデザインになっているかと思います。いわばこれが、実際の「本」の姿です。もし、手元に洋書があれば見ていただきたいのですが、それがハードカバーの上製本でなければ、多くの場合、カバーがなく、わたしたちが「表紙」だと思っていた「カバー」と同等の、多色刷りのデザインの表紙になっているのではないでしょうか。つまり、高級な本の厚手の表紙を傷つかないように守るためにカバーがある、ということが基本のようなのです。言われてみれば当たり前という気がしますよね。
表紙とカバーが別になっていることに、あまり合理性はない気がしますが、一つ考えられるとすると、カバーを「広告」として考える文化が日本にあったことが影響しているのかもしれません。
先に書いた、書店が提供する紙のカバーは、広告媒体でもありました。書店側でその本が購入済みであるかを認識するための機能を持ちつつ、書店自体の広告にもなりますし、企業が宣伝用のカバーを作ることで、読者が街中で本を読むことが広告訴求となる効果が期待できます。
言わば、カバーとは広告的な役割を担える存在だと認識されるので、一見して人を惹きつける力を求められるということです。数多ある本が書店に並ぶ中で、思わず手を伸ばしてしまうカバーのデザイン。それだけでは競争力がなくなってくると、「1000万部突破!」「〇〇氏絶賛!」などといった魅力的なコピーが大きく描かれた帯が巻かれることで、さらに読者の気持ちに訴えかけるようになっていくのです。
カバーのデザインや帯の煽り文句だけではまだ足りない……となったときに、「売れるタイトル」は、さらに情報量を増やす方向で変化することになった、ということが、今のタイトル長文化につながっているのではないでしょうか。
よく、洋画のタイトルが日本上映される際に、長い邦題がつけられることがあります。「アナと雪の女王」の原題が「Frozen」だったことはわかりやすい例だと思いますが、日本は「わかりやすいほど良く売れる」という国で、逆に言えば、日本以外の国では、「わかりやすいほど良く売れる」とは限らない、ということなのかもしれません。
そう言えば「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」というスタンリー・キューブリック監督の映画がありましたが、この邦題は監督が各国の配給会社に「Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb」という原題を一字一句変えるなと指示したことによるものだそうです。今となっては、なんだか皮肉めいて読めてしまいますね。