なぜ働いていると本が“読めるようになる”のか

大量の本が中央から渦を巻いて広がっている写真

「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」という本がヒットしています。この本は、学生時代は有り余っていた時間を、読書に使わなくなってしまった現代人に読書を啓蒙する本……だと思います。

……すみません、わたしはまだ読んでません。とは言え、書店でタイトルを見た時からずっと気になっていて、読もう読もうと思いながらなかなか手が届かずにいます。

それこそまさに「働いていると本が読めない」が起こっている……というわけでは全然なく、理由は別のところにあります。

なぜならわたしは、「働くようになってから本が読めるようになった」からです。

わたしはもともと本を読むのが遅く、学生時代には漫画以外の本は数えるほどしか読んでいませんでした。小説も苦手で、セリフ以外の説明文が全然頭に入ってこず、脳内に浮かぶ絵がずっとぼんやりしていました。就職したての頃は、それでも頑張って仕事(デザイン)に関する本を読んでいましたが、仕事だし無理して読んでいるので、あまり楽しくないのです。楽しくないので、わたしにとって読書は、それほど好きな行為ではありませんでした。

ところがある日、仕事とは全く関係のないところで、「科学者が信仰を持つ、というのはどういうことなんだろう」と思い、「科学するブッダ」という本を読んでみたら、これがすこぶる面白かったのです。面白かったというか、「直接役に立たない知識を得ることは楽しい」ということに気づかされたのです。自分は、小説よりも、こんな感じの本が好きなんだ、と思いました。

それをきっかけに、いろんな本に手を伸ばすようになりました。最近ようやく、塩野七生著「ローマ人の物語」文庫版43巻を読破しました。

読むのが遅いのは変わりません。月曜日から金曜日まで会社と家を行き来する一般的な働き方をしているので、読書にかけられる時間が制限されることも同じです。43巻を読み切るまでに、なんと2年もかかってしまいました。月に10冊ぐらい読むのは当たり前、という読書家からすれば、呆れるような遅さです。

なぜ2年もかかったのか、そして、なぜ2年も読み続けられたのかと言えば、それは「通勤電車で読んでいたから」です。

わたしの家は、職場から片道約1時間。電車に乗っている時間は約30分。つまり、月曜日から金曜日まで、毎日1時間はほぼ必ず電車の中にいるわけです。この時間は、特に何もすることがありません。たまにメールを確認して、仕事のやり取りをすることもありますが、みなさんの出勤前に出勤して、みなさんの退勤後に退勤してると、それも滅多にありません。

この時間を読書にあてることにしたのです。すると、平日毎日1時間、月に約20時間は読書することができるようになります。わたしの場合、あまり難しくない普通のであれば1時間で大体20〜30ページぐらい読めますので、400ページぐらいであれば毎月一冊は読める計算になります。一年で12冊。ずいぶん少ないじゃないかと思われるかもしれませんが、今の大人は月に一冊も本を読まない人が6割ですし、そもそも読んだ本の数を競う意味も別にありません。

要するに、そもそも読書ができなくなるのは、時間がないからではありません。読書の「習慣づけ」ができないからだということです。時間はあっても、時間の明確な使い方が決まっていないので、読書以外の「今やりたいこと」を優先し、その結果、気まぐれなタイミングで「さあ読むぞ」と読み始めても、その場で一気に読み終わらない限り、続きを読むタイミングを決められず、そのまま本棚にしまいっぱなしになってしまうのです。もしわたしが時間の有り余っていた学生時代に読書の面白さに気づけたとしても、

わたしにとっては通勤電車がちょうどその「習慣づけ」となったので、いくら読むのが遅くても、2年もかければ電車内で「ローマ人の物語」が読破できるのです。もちろん、作品が大変面白いから(あと文庫版は1冊が薄いので読みやすい上に荷物にならず、ポケットにも入る手軽さもあったので)読み続けられたわけですが、もしわたしが読書を習慣づけられていなければ、きっと途中で挫折していたことでしょう。

というわけで、わたしは、通勤時間という「決まった自由時間」が生まれたおかげで読書ができるようになりました。つまり、「働くようになってから本が読めるようになった」のです。

人それぞれ、どのように習慣づけられるかは違うでしょう。夕食どきに読むのがいい人もいるかもしれませんし、朝の出勤前が時間を決めやすい人、昼休み、お手洗い、就寝前など、毎日必ず訪れる機会を使って習慣づけることで、読書を続けることができるようになるでしょう。

さらに、隙間時間を狙って他の本も読むようになれば、より多くの「読みたい本」に手が届くようになると思います。でもそれは、おまけの時間。隙間時間だけで本を読もうとすると、その時間は大体スマホに先に吸い取られ、気がついたら読書をしなくなってしまっていることでしょう。あくまでも大切なのは「習慣づけ」です。

以上、わたしのように、根っからの本好きではないけど、本を読むのは楽しいし、毎日忙しい中でも読書の時間を作りたい、と思っている方のお役に立てば幸いです(上記の本の内容と被っていないことを祈っています・笑)。

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