「人生で何かをうまくやって、それで満たされたときのことを話してください」

黒の背景に虹色に揺らぐ炎のようなパターン

本記事のタイトルは、ルーク・バージス著「欲望の見つけ方」よりの引用です。

この本は、人間の欲望がどこから生まれているのか、その源を「模倣」であると論じています。人は欲望の対象を見つけ、それを模倣することで欲望を満たす。大衆の動員も、ネットミームも、スティーブ・ジョブズのライフスタイルですら、それは模倣から生まれているということです。

この本では、模倣による欲望にはネガティブな面とポジティブな面があるが、多くはネガティブな面を警告する意味でページを割いています。特にスケープゴートに関して書かれた章(ユダヤ教における山羊を生け贄にする儀式からスケープ(生け贄)ゴート(山羊)と呼ばれているそうです)には、人間の根源的な残酷さが垣間見えて怖くなってしまいますが、著者はネガティブに作用する欲望を「薄い欲望」と捉え、ポジティブに作用する「濃い欲望」を育むよう促しています。

「薄い欲望」とは、「お金持ちになりたい」「高級車に乗りたい」「ブルーノ・マーズの公演の最前列のチケットが欲しい」などの物欲をはじめ、わたしたちが直感的に欲望と聞いて連想するほとんどの欲望が含まれます。著者はそれを「内在的な欲望」と呼び、「濃い欲望」を「超越的な欲望」と呼んでいます。

では「濃い欲望」とはなんでしょうか。それを探すためのヒントが、「人生で何かをうまくやって、それで満たされたときのことを話してください」という質問にあります。この質問の回答が、その人にとっての「濃い欲望」がなにかを浮かび上がらせるというのです。

回答には、三つの条件があります。1「行動であること(物欲は行動ではないので全て除外されます)」、2「自分でうまくやったと思っていること(他人からの評価は関係ありません)」、3「充足感をもたらすこと」。

さて、みなさんはすぐに思い浮かびますか?

ひとつとは限りません。2で書いた通り、他人の評価は関係ありませんので、自分にとって大切なことであれば、人が些細なことだと思うようなことでも良いのです。それらを探しているうちに、誰かの模倣ではなく、自分が本当に欲していることが何なのかが見えてきます。

たとえばわたしの場合、10数年前に、神戸の塩屋にある洋館で、高級オーディオでレコードを聴くイベントを行なったことが挙げられます。高年齢化しているオーディオファンではなく、普段オーディオに接点のない若者に向けて「いい音で聞く」ことの面白さを伝えるためのイベントとして、普段若者が集まる場所(この洋館はいつもはコンサートやイベントの場として若者たちの交流の場とのなっています)で上記のイベントを行ないました。わたしにとってはひとりで大勢のお客さんの前で話す初めての場でもあり、また、会場が立ち見も出るほどの盛況だったこと、アンケートに期待を上回る嬉しい感想を書いていただけたことなど、とにかく全てがうまくいったような気持ちで、その日もその次の日も、とにかく満たされた気分でいっぱいでした。この質問に出会って久しぶりに思い出しましたが、そのときの充足感を思い出し、改めて胸の奥が熱くなるほどです。

このようなエピソードから、その人が何を欲しているのか、その人にとっての「濃い欲望」が見えてくるのだそうです。

「濃い欲望」には、それぞれ動機づけとなるパターンがあり、本書ではそれを27種類に分けています。「可能性を実現する」「前進する」「独特である」など、その人が何をモチベーションにしているのか、ということです。

わたしのエピソードは、その中では「理解して表現する」が近いように思いました。高級オーディオでレコードを聴くイベントは、オーディオマニアではないわたしが高級オーディオについて知ったことを、若い人たちにわたしなりの理解で表現し、伝えるイベントでした。考えてみれば、このブログも、「理解して表現する」コンテンツのように思えます。もしかするとわたしも「濃い欲望」は、「理解して表現する」ことにヒントがあるのかもしれません。

「人生で何かをうまくやって、それで満たされたときのことを話してください」という質問は、自分を知ることよりも、相手を知ること、相手との関係性をよりポジティブなものにしていくことができるものとして書かれています。互いに競い合って消耗するのではなく、相手に対する深い理解から力を合わせて高めあうための方法。ネガティブな方向へ流されがちな「薄い欲望」を、ポジティブな「濃い欲望」へと引っ張っていく機能があるということです。

あなたも、身近な人から「人生で何かをうまくやって、それで満たされたときのことを話してください」と質問してみませんか?今後、わたしと出会った人は、わたしからその質問が出てくるかもしれませんので、事前に準備しておいてくださいね(笑)。

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