「AIが人間の仕事を奪う」のではなく「AIが人間の仕事を生み出す」と思う理由

Adobe Fireflyが生成した、ペンを右手に持ち、左手をノートPCの前に出して掌からオーラのようなものが吹き出しているスーツ姿の男性の画像

わたしがデザインの勉強を始めた約30年前、学校で教わったのは、烏口や雲形定規、マスキングテープなどの使い方や、水張りの方法などでした。手先が不器用なわたしは、これらがとても苦手で、今思えば、なんでこんなに不得意なのにデザイナーになろうとしていたのが不思議なほどです。

その学校を卒業して、わたしはデザイン会社(つまりこの会社、プランニング・ロケッツです)に勤めることになりました。

出勤初日、会社から支給された仕事道具は、烏口ではなく、AppleのコンピュータとAdobeのアプリケーションでした。

そう、わたしが学校で習った苦手なことをせずとも、Adobe Illustratorが自由自在に直線・曲線を引き、パソコン上でデザインを完成させることができる時代になっていたのです。もしわたしがもう少し早く生まれていたら、早い段階でデザイナーを諦め、何か別の仕事に就いてたかもしれません。その方がよかったかもしれないという仮定の話は置いておくとして(笑)、つまり、デザイナーになるためのハードルは、それまでと比べて明らかに低くなっていたということです。

そんなわたしのデザイナー人生を支えてくれているAdobeのソフトに、昨年より生成AI「Adobe Firefly」が加わりました。
こちらから指示を出すことで、自動的にビジュアルを作り出したり、イラストの描写、写真のレタッチなど、これまで時間を取られていた煩雑な作業が、AIによって短縮できるようになりそうです。本記事の冒頭の画像も、Fireflyに「未来のデザイナーがオフィスで働いている様子」という指示を出して描いてもらいました。

短縮できるように「なりそうです」と書いたのは、今のところ「期待したほど思い通りにならない」からです。冒頭の画像も、こうやって「Fireflyで画像を作りました」という前提があればなんの問題もありませんが、実際にお客さまに納品するには問題の多い、不完全な画像と言わざるを得ません。IllustratorやPhotoshopでも生成AIに直接イラストの生成や画像の切り抜きなどがワンタッチで指示できますが、正直これが実在する部下だったら「うん……がんばったね。あとはこっちでやっておくから」と言って、見えないところでこっそりゴミ箱へ……というレベルです。

しかし、ジェネレーターと言えどもAIと名のつくサービスですから、やがて問題は解消されていき、実用に耐えうるツールになるまでにそれほど待つことはないでしょう。昔、わたしがデザイナーになることを助けてくれたように、Adobeの生成AIが、これからのデザイナーがより自分たちの才能を活かしていくことを、強く後押ししてくれるツールとなってくれることでしょう。

自分のキャリアのスタート地点を振り返ると、わたしはAppleとAdobeに仕事を作ってもらったようなものです。ならばAIも、「人間の仕事を奪う」だけではなく、きっと人間の仕事を生み出してくれるのではないでしょうか。